ふるあめりかに袖はぬらさじ。 

 

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杉村春子さんには色々なことを教えて戴きました。
僕は役者ではないので、同業者として、役者のあれこれではないけれど、
人生の大先輩として、所謂、背中を見て覚えるって感じでしょうか……。
面白いエピソードは前に書きましたよね。

その杉村さんの新しい本が出ました。
川良浩和著「忘れられないひと、杉村春子」です。
知らなかった生前の杉村さんの姿が垣間見れて大変に興味深かったです。
杉村さん関連の本は沢山出ていて、自著、評伝を含めると10冊近くになります。
興味深いのは、杉村さんは「杉村春子」のタイトルで、
高橋克郎と春内順一の写真集が2冊が出ていることでしょうか。
勿論、杉村さんはグラビア・アイドルではありませんから、
2冊とも舞台の杉村さんを収めた貴重な写真集になっています。
写真を撮るために、わざわざ照明を当て、ポーズを取ることなく、
実際に舞台で演技をしている、その一挙手一投足を撮影。
笑う顔、泣き崩れる姿……どの瞬間を切り取っても美しいのが凄いです。

前にも書きましたが、杉村さんは「形」の人だと思います。
新劇の枠に捉われず、新派の喜多村緑郎に教えを請うたり、
歌舞伎役者、尾上松緑と共演したりするうちに形成された美しい「形」……。
「形」を通して、女の美しさとはこうあるべきだと提示します。
演劇のどの形にも属さない独自の「形」を持った唯一無二の存在、
新派公演に客演した時、花道を出て来た杉村さんに「杉村!」の声が掛かります。
日本の演劇史上においても希有な存在、真の大女優だと思います。



さて「忘れられないひと、杉村春子」の中にも記述があった、
有吉佐和子の傑作戯曲「ふるあめりかに袖はぬらさじ」の舞台を観てきました。
言わずと知れた、有吉佐和子が杉村さんに当てて書いた傑作戯曲です。
主演は大地真央。他に、佐藤B作、鷲尾真知子、横山 正、斉藤 暁、
浜中文一、中島亜梨沙など。演出は宝塚歌劇団の原田 諒。

大好きな戯曲なので、大慌てでチケットを取りましたが、
チケット・センターに電話をしてチケットを無事にゲット!
電話を切った瞬間、チラシを見て大きく深く激しく後悔しました。
お、お、お、お、音楽劇……って一体?(苦笑)
勿論、戯曲はテキストですから、どのように料理するかは演出家の自由です。
シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」からは優れたミュージカル、
「ウエスト・サイド・ストーリー」が生まれ、
その他にもあらゆるジャンルにわたって作品が生まれています。

ただ、いきなり幕があがると芸者衆を引き連れた大地真央のレビュー……。
その後も、合間合間に挟まれる歌が興を削ぎます。戯曲の流れを断ちます。
決定的だったのは、最終幕、お園が勤王の志士たちに脅され、
雨にびしょぬれになりながら言う幕切れの台詞。
腰は抜け「あぁ……怖かった。」と震えながら、
お銚子から余った酒を小鉢に移してグビグビとあおり、

 「抜き身が怖くて刺身が喰えるかってんだ!」

と、啖呵を切ります。
一人で生きて来た三味線芸者の心細さと強がりが垣間見える、
この戯曲の一番の見どころ、たった1人の大ラストシーンです。
しかも杉村さんは客席に背中を見せながら演じます。
そして、最後の名台詞……。

 「このお園さんと来た日にゃ、袖からなにまでびしょぬれだよ……。」

次第に強くなる雨の音……。
 
 「それにしてもよく降る雨だねぇ……。」

この2つの大事な大事な台詞の間に思った通りに歌が入るの。
この圧倒的な間の悪さとセンスのなさ(苦笑)
死にかけている猫の娼婦が大声で歌を歌う「Cats」」似ている(苦笑)
ここで歌を入れるかい?どんなセンスしているんだか。
戯曲はズタズタに切り刻まれ、死んだ花魁が出て来て歌い舞ったり……。
解釈は自由ですが、吉原から品川、そして横浜に流れ着いた、
三味線の腕はピカイチだけど、男と酒で身を持ち崩した三味線芸者、
お園の悲しさと、苦界で身を粉にして働く人々の悲哀なんて言うものは微塵も感じません。

そう、この戯曲の最大の魅力はお園の人間臭さです。
有吉佐和子が杉村さんの普段の言葉使いを元に当て書きしたのです。
生身の人間、流れに流れて来た三味線芸者の悲喜こもごもが魅力なのに、
美しいことだけに執着した大地真央からは人間臭さが感じられません。
それは致命傷です。お園は美しくある必要はないのですよ。

もう冒頭から怒り心頭だったのに、紛々たるこの思いをどこにぶっつけよう。
大地真央を美しく見せるためだけの題材に選ばれた悲劇の戯曲。
較べてはいけないけれど、芸術って比較文化ですからね。
どの瞬間を切り撮っても美しかった杉村春子と、
美しく見えることだけに腐心しているように見える大地真央。
自然に転んだように見える「形」で着物の褄が捲れて美しく見える杉村さんと、
転ぶ際に褄を両手で捲るようにして転ぶ大地真央の差。

 「二上りでしたかねぇ……。」

但し、ピンで三味線を弾きながら堂々と大きな声で歌う様はお見事。
三味線を弾きながら歌う乗ってなかなか難しいのです。

何が何でも杉村春子が一番と言っているのではありません。
有吉佐和子が杉村さんに当てて書いた傑作戯曲だと言うことを忘れてはいけません。
その自分の言葉で当て書きされた杉村さんでさえ、
後半の講談調のところは恥ずかしくてなかなか思い切り出来なかったとか。
魅力的だけれどそれだけ難しい戯曲だと思うんです。
役を演じきり美しく見えた杉村さんと、美しく演じることに執着した大地真央。
こちらは較べることの方が酷ですか……。
観劇料13000円……これをどう思うか?悩ましいです。

写真は我が家のお園ちゃんね。


2017年8月2日


ブノワ。


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コメント

 

命に刻まれる演技

ブノワさん こんばんは。
モンゴル組帰宅しました。
必死のリハビリ中に、
「成田に着いた。夕飯は、ワインとハンバーグたのむ。」
とメールが入っていました。
いったんバランスの崩れた体を元に戻すのは大変なことで
鬼のクールビューティのトレーナーの
厳しい叱咤に自信がなくなりそうだったのに、
のんきに、ワインとハンバーグ・・・もう今畜生って感じでした。

ところで、この記事どこか手を入れたの?
最初のUPから数日過ぎましたね。
納得いかなかったものがあったのかな?

有吉佐和子さんもすごい作家でしたね。
その有吉さんが、杉村春子に贈った舞台。
恐れながら言わせてもらえば
他の人が演じてはいけない舞台かもしれない。
有吉さんが、杉村春子の何もかもを知ったうえで贈った戯曲だから。

杉村春子さんは「欲望という名の電車」も得意とされていましたね。
映画ではビビアン・リーが演じて、他の追随を許さないという
見事な演技でした。生まれはいいのに、だんだん落ちぶれて
半分娼婦みたいな生活を送り、心も体も壊れて妹のところにやってくる。
それでも昔の生活が忘れられず虚飾を必死に保とうとして、ある日破局が訪れる。妹の夫であるマーロンブランドに、虚飾をはぎ取られ暴行される。その時に割れた鏡が、完全に壊れた主人公の心と精神を見事に映し出す。悲劇でしたね。壊れていく姉を必死に守ろうとする妹のステラが、唯一健康で健やかな精神を体現しているように見えました。

私は、杉本さんのブランチを見ずに終わってしまいましたが
「欲望という名の電車」も
舞台も映画も、他の俳優がやってほしくないという思いがあります。

ジャンヌ・モローも亡くなったし。淋しいな。

hibari #O5sb3PEA | URL | 2017/08/02 21:00 | edit

見てないのにあれこれ言うのもなんだけど、
なにもわざわざミュージカル仕立てにしなくてもねー。
だって、三味線でしょ、きっぷのいい科白でしょ。
だのに大地真央でしょ(笑)
イメージあわなくない?
刺身をナイフとフォォークで食べるようなかんじ。

大地真央さんは役になりきりたい人じゃなさそう。
お人形のようにいつでも綺麗。
顔がおんなじ。
年もとらない。
そういう大地さんのほうに合わせた物がきっといいんだと思う。

13000円・・・
そっかー。






ムー #qiVfkayw | URL | 2017/08/04 21:44 | edit

あら、見てたのねぇ(笑)

hibariさんへ。
おはようございます。
暑いですねぇ……お元気ですか?
メッセージどうもありがとうございます。
あの一瞬、見てました?手を入れたのではなくて、
書いて予約更新するところでしくじりました(笑)
数日は過ぎていませんよ、ほんの一瞬です。
有吉さん、本当に凄い作家でしたね。
もっともっと戯曲を書いて欲しかったです。
この大地真央版……ご本人が生きていらっしゃったら何と言うでしょうね。
そんなことを考えながら見ていました。
「欲望という名の電車」のタイトルが出ましたから書きますが、
ブランチを男が演じるバージョンを遺族が頑に拒んでいたでしょう?
分かるんです、男優があれをやりたい気持ちって。
実際に上演の記録もありますが、一番最初は中止になったハズです。
戯曲はテキストですから、如何様にも料理して構わないと思いますが、
そこは矢張り、戯曲の精神みたいなもの、それは大事にしないと。
杉村さんが東美恵子版を観に行こうとして途中でやっぱり帰っちゃった話しは有名です。
見られなかったんですね……お気持ち良く分かります。
僕も本当なら全てのバージョンのブランチを見たいと思うのですが、
どこかに拒否反応があったりします。
大竹しのぶはどう演じるかが見えてしまうから行きませんでした。
ミルウォーキー・レパートリーシアターのも観ましたよ。
あのトム・ベレンジャーがスタンレー演ったの。
もう映画ではスターでしたが、日本公演に来た。
主役のペギー・コールズは立派な演技でしたが、
矢張り、学校の先生的な教科書的な演技……。
ブランチは学校の先生でしたからそれでいいのかもしれませんが、
チョッと物足りなかった……そう、優等生的なのね。
ヴィヴィアン・リーは学校の先生には見えなかった。
儚く脆いガラス細工でインテリで……どこかに女豹の雰囲気。
「欲望という名の電車」のかなめはステラの配役ですよね。
ブランチとステラの対比が一層、ブランチの悲劇を際立たせる……。
「ハムレット」だって現代版があり、ミュージカルになり、
トレンチコートを着て出て来たり色々ですが、
今回の「ふるあめりかに袖はぬらさじ」はチョッと……。
ジャンヌ・モロー……いい女優でしたよね。
お星さまがどんどんいなくなります……。

ブノワ。

ブノワ。 #- | URL | 2017/08/07 08:15 | edit

勿体ないです。

ムーさんへ。
おはようございます。暑いです、お盆間近です。
メッセージどうもありがとうございます。
元気にしていらっしゃいますか?
ムーさんの印象、まさにその通りかもしれません。
大地真央って類い稀なスター性を持った人だと思うのね。
綺麗だしね。この綺麗に関しては、今回の修正しまくったポスターに、
大いに疑問を持ったものですが、どうしてそこまでやる?
まるで往年の山口はるみのエアブラシのイラストみたい(苦笑)
あんなにお綺麗なのに何故?修正するってご本人に失礼では?
僕はそう思う方なので凄く不思議です。
既製の戯曲ではなくて、もっと彼女の魅力を最大限に出せるものがあるハズなんです。
役者って色々なタイプがあるのでしょうけど、
少なくとも大地真央ってムーさんが仰言る通りで、
役になり切って演じるタイプではなくて、
如何に自分が美しく見えるかが大事な人なんだと思うんです。
悪い意味ではないですよ。それが可能な人だと思うから。
だったら、その大地真央の魅力を最大限に引き出すものをすればいい。
幕が上がると芸者衆を引き連れた大地真央がポーズとって立っている訳。
こう、扇子を開いて斜に構えて……隣の友人と顔見あわせちゃいました(苦笑)
三味線芸者のお園は綺麗である必要はないんです。
酒と男で身を持ち崩した中年の三味線芸者なんですから。
玉三郎もここでハマった。綺麗、綺麗でやったのね。
藤山直美と来た日には、立ち上がって柱に激突して笑いを取った(苦笑)
宝塚の演出ってどんなものか知らないけれど、
あの出来で普通の芝居ファンを納得させることが出来たと思ったら大間違いです。
甘いです。学芸会じゃないんだから……。
あんなんで満足するファンっているのかなぁ?
大地真央のファンってあれを見て何を思うんだろう。
あの大劇場を満席に出来る集客力でしょう?勿体ないなぁ。
佐藤B作は凄かったですよ(笑)加藤武より良かったかも。
観劇料ですけどね、観終わって「あぁ〜!」と思わせたらダメなんです。
ムーさん、13000円ですよ、13000円!(苦笑)

ブノワ。

ブノワ。 #- | URL | 2017/08/07 08:43 | edit

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