俳優の格……「かもめ」に思う。 

 

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ある一枚の写真を見て驚きました……。
今、絶賛上演中の「かもめ」の宣伝用のキャストの集合写真です。
まるで、チェーホフが「モスクワ芸術座」の面々と本読みをしている時の有名な写真と同じ構図です。
何と言う洒落た遊び心!いやがうえにも期待が膨らみます。
今、日本で最も信頼のおける、演出、熊林弘高と、上演台本、木内宏昌のコンビですしね。
佐藤オリエさんから1年くらい前から台本作りに参加していると伺っていましたし……。

アントン・チェーホフ作の「かもめ」……原作には「喜劇4幕」とあります。
今まで来日した「モスクワ芸術座」をはじめとして、数多くの「かもめ」を観てきましたが、
この「喜劇」を感じることは殆どありませんでした。
演出としての笑いではなく、台本そのものから匂い立つ喜劇のエッセンス。
そこはかとなく漂う喜劇の匂いを「かもめ」から感じたのは初めてでした。

デザインの違う椅子、巨大なカーテン、ピアノ……舞台には少ない小道具のみ。
7組の擦れ違う恋愛、トレープレフとニーナの恋を軸に、
それぞれの恋が輪廻のようにお互いに影響を与えながら回転していきます。
その中で、当時に限らず、今の代も変わらずに試行錯誤され、
語られる芸術のありようを演劇の皮を借りて論じていきます。
今を煌めく旬の若手に加え、老練な演技術のベテランがキリリと要所を締めます。



俳優には「格」と言うものがあります。
それはマスコミが囃したて、2時間ドラマの主役をやれば大女優……的な、
大根畑に大女優がゴロゴロ……何て言う思わず苦笑してしまう悲惨な笑い話ではなく、
例えば、チェーホフで言えば、この作品のアルカージナや「桜の園」のラネーフスカヤ夫人、
テネシー・ウィリアムズの「欲望という名の電車」のブランチ、
シェークスピアのマクベスやリア王に配役された時に、
その俳優の「格」が顕になります。「格」言うより「分(ぶん)」と言った方が分かりやすいでしょうか。
演劇史上の名立たるキャラクターに相応しい「格」を持っているかどうか……。
分不相応な配役は役者にとって恥ずかしいものになってしまいます。


アルカージナを演じた佐藤オリエ……愛らしくて嫉妬深い大女優を好演。
彼女の卓越した台詞術は、囁く声まで客席の最後列までキッチリ聞こえます。
アルカージナは偉大な女優で一人息子を溺愛していますが、
年齢を顧みずに若い作家トリゴーリンとの愛に溺れています。
佐藤オリエの圧倒的な演技力、演出の熊林弘高とは同じ役で2度目のタッグです。
勿論、彼女には大女優のとしての「格」があります。
アルカージナに相応しい格。若い女優の卵に嫉妬する姿に滲み出る余裕のオーラ。

ニーナを演じた満島ひかり。
女優になることを夢見てモスクワに出てトリゴーリンとの間に子供を設けるも、
やがて子供を死なせ女優としても惨めな境遇に……。
この役も役者の「格」を問われる新進女優の登龍門。
ニーナやハムレットを演ると言うことは、その時代の若手ナンバーワンであることの証明です。
但し、その後、順風満帆に行くかどうかは別問題ですが……。
夢破れてトレープレフの元に戻った後の、未来へ向ける情熱が再燃する辺りが一筋の救いです。

トレープレフを演じる坂口健太郎……まさに旬の人。
失礼ですが、意外に達者で驚きました。同行の坂口健太郎ファンの女子は、
楽屋口に出て来て友人たちと歓談している坂口くんをガン見(爆)
僕にとってはただただあの髪型が不思議以外の何者でもないんですが……。

田中圭のトリゴーリン。
上演が1年早かったら彼がトレープレフでしょう。
それだけ新しい才能が台頭してきている証明です。
自らの才能に自信を持ちながらも、若いトレープレフの才能を知り焦りを感じます。
次から次へと舞い込む仕事に流れ作業的な文筆業に辟易。
どんなに頑張ってもトルストイやゴーゴリ、ドストエフスキーには到底及ばない、
自身の才能の限界も重々承知。ずっと年上の大女優アルカージナの、
若い燕に甘んじている自分にもほとほと自己嫌悪を感じています。
どこか投げ遣りなトリゴーリンを若い田中圭が好演。

中島朋子……脇でキラリと輝きます。
しかし、マーシャに中島朋子とは!何と言う贅沢な配役。
小林勝也……枯れて来た役者の色気みたいなもの?いい味でした。
他に、あめくみちこ、渡辺 哲、山路和弘、渡辺大和。
アンサンブルが一際際立つ「かもめ」……本年度必見の作品です。


2016年11月18日


ブノワ。


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