嘘の代償……「レティスとラベッジ」&「雪まろげ」。 

 

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 「真実なんて大嫌い!私は魔法が好き。
  魔法……私は真実を語ったりはしない。そうでなければならないことを語るの。
  それが罪だと言うのなら、私は地獄に墜ちてもかまわない……。」

そう言ったのはテネシー・ウィリアムズ畢竟の傑作、
「欲望という名の電車」の中のブランチ・デュボアです。
彼女はボロボロになりながら生きるために嘘を吐く……。
人は善悪の差はあれど、多かれ少なかれ嘘を吐きます。
悪意のある嘘、人を思んばかっての嘘、優しい嘘、
ブランチのように「こうあらねばならない……。」と、
生きるために必死になって自己催眠を掛ける嘘……。

今日は嘘にまつわる芝居2本立てです。


先ずは黒柳徹子と麻実れい共演の「レティスとラベッジ」です。
何と!ソワレが1回しかない異常なタイムテーブルの初日に観劇。
働いている人はいつ観ればいいの?(苦笑)初めて訪れる「EXシアター六本木」です。

主人公のレティス(黒柳徹子)はイギリスの歴史的な建物のガイドをして生計を立てています。
担当している建物に歴史的な逸話や魅力がないため、どんなに工夫を凝らしても、
ツアー客は退屈し大あくび、赤ん坊は泣きだし、途中退席でトイレに駆け込む人が後を絶ちません。
業を煮やしたレティスは、次第に自分勝手に面白可笑しく歴史を脚色し、
ツアー客の拍手喝采を浴びるようになります。サインや記念写真を求められる人気ぶり。
その傍若無人ぶりは、やがて歴史保存委員会のロッテ(麻実れい)の耳に入ることとなります……。
即刻、ロッテにより解雇されたレティス、やがて時が経ち、
レティスに自らとの共通点を見いだしたロッテはレティスに就職の紹介状を書き、
やがて2人の間に友情が芽生えて行く……。

ピーター・シェーファーの傑作戯曲との触れ込みですが、
レティスのエスカレートする嘘を冒頭の数場で立て続けに見せる手法が退屈です。
例えば、有吉佐和子の「ふるあめりかに袖はぬらさじ」の、
お喋りで酒飲みで男にからっきし弱い三味線芸者のお園のように、
淋しくて恋に破れて自害した旧知の花魁の話が、
ひょんなことから次第次第に尊王攘夷の見上げた女傑に祭り上げられるまでの、
仕方なく吐いた嘘がやがて雪だるま式に大きくなり、最終幕の名台詞に至るまでを、
物語の中に巧く織り込んでいるウェルメイドな作劇とは一線を画します。
あれだけ頑なだったロッテがレティスに好意を寄せる過程が突飛。
一転して2幕では被害者と加害者に別れて争うことになる過程、
その驚きの秘密が何やら付け焼き刃的な匂いがします。

ほぼ2人芝居、麻実れいは「インディ・ジョーンズ・クリスタルスカルの王国」で、
ケイト・ブランシェットが嬉々として演じたソ連の女スパイ、
イリーナ・スパルコみたいなボブの鬘を被って好演。
彼女の切り口上な台詞回しがギスギスしたロッテの性格を巧みに表現します。

黒柳徹子は役を演じると言うよりは等身大の黒柳徹子そのままです。
ファンの方はそれでいいのでしょう。テレビの中の黒柳徹子を生で観られるのですから。
彼女の一挙手一投足に笑いと「可愛い!」の声が上がります。
膨大な台詞に加えて初日です。まだこなれていないのか、台詞がもどかしい場面も……。
台詞が出て来ない時についつい口を突いて出た驚きの言葉……。

 「何だっけ?」

これはある意味衝撃的でした(苦笑)
もしかしてこれも台詞の一部か?(笑)それもこれも含めて、
黒柳徹子ファンは彼女の全部引っ括めた姿を観に来るのでしょう。それもまた一興。

ただ一つだけ……。
どなたも書かないようですが、彼女の滑舌の悪さには辟易とします……。
往年のマシンガンのような早口のトークを知っているから尚更なんですが、
もはや、お金を取って芝居をしてはいけないレベルだと思うのです。
周りに進言する人はいないのでしょうか?テレビの創世紀から、
トップランナーだった彼女の晩年を汚すことにならないでしょうか。
最晩年の森 光子が正月の歴史劇で、
亡霊のようなナレーションで人々に衝撃を与えたのも記憶に新しいです。
一見、優しく見える嘘、オブラートに包んで彼女を讃えるより、
ハッキリ伝えることもまた愛情だと思うのですが……。

因みに、黒柳徹子も麻実れいも、それぞれ名前を冠した薔薇を持っています。
「トットちゃん」に「Rei」(今日の写真)……何れも素晴らしい薔薇です。

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鳴り止まない拍手、場内は総立ちでした……。
決められたカーテンコールはあまりの拍手にさらに1回追加になり、
(場内はすでに明るくなっていた……。)沢山の人が舞台に駆け寄る有様……。

 「頑張って!」

 「応援してるよ!」

観客席のあちらこちらから声が掛かります。

16年前の「レティスとラベッジ」でロッテを演じた、
高畑淳子主演の「雪まろげ」を「シアター1010」で初日に鑑賞しました。
僕……「シアター・クリエ」は嫌いなのです。だから北千住ね(笑)
森 光子から高畑淳子にバトンタッチされた「雪まろげ」。
青森県の浅虫温泉を舞台に繰り広げられる温泉芸者たちの悲喜交々の人情話し。
新劇とも違うし、所謂、東宝や松竹などが制作するウェルメイドの喜劇とでも言いましょうか……。
因みに、僕は森 光子が苦手でしたから、オリジナル版は観ていません。
「雪まろげ」は僕の理想とする演劇とは可成りかけ離れていました。
「お江戸でござる」的な、チョッとコントのような仕立て方。
温泉芸者を演じる高畑淳子をはじめ、榊原郁恵、柴田理恵の確実で手堅い演技。
笑いを強引に取る演技手腕は大したものでしたし、
青木さやかや山崎静代の持味そのままのキャラクターで見せる人も……。
人のいい温泉芸者が善意で吐いた嘘が、ひょんなことから雪だるま式に大きくなり、
仕舞いには国をあげての大騒動に……。

高畑淳子が、夢見る夢子と揶揄される嘘つき芸者、夢子をパワフルに好演。
彼女の吐く嘘は相手を思んばかっての善意の嘘、周りは呆れるものの、
いつしかそんな夢子の温かい人柄についついほだされてしまいます。
登場人物は全員、根のいい善人ばかりなのです。
♪チュウチュウチュチュ……榊原郁恵の銀子は、一見、金の亡者なのだけど、
そこには、人手に渡った実家の造り酒屋を取り戻すと言う夢が。
自分に嘘を吐き、嫌いな客にも金のためないい顔をするドライな一面もあります。
柴田理恵の千賀子は気っ風のいい姐御肌の芸者置き屋の女将。
我が腹を痛めた娘を「妹」と偽り居酒屋をさせています。
旅館の女将もがらがら声を偽って裏声で館内アナウンスを……。
要は、嘘の大小はあれど、皆、嘘をついて生きているのです。


少し前に高畑淳子の「欲望という名の電車」を観ました。
杉村春子の圧倒的なブランチをはじめ、それまでの、一人の女が身を持ち崩していく、
所謂、滅びの美学みたいなものとはまったく違う何か、
ブランチはかくあるべし……僕たちの既成概念を打ち壊した高畑版ブランチでもありました。
彼女はブランチを演る前に、東恵美子版「欲望という名の電車」で、
妹役のステラを演じているんですよね……確かその前は看護婦役も?
洋の東西を問わず、キャリアを積んで行くと共に、
同じ戯曲の小さな役から大きな役へ移行する例は珍しいです。
舞台人としての確実なキャリア、テレビなどに置けるキャラクターの圧倒的な演じ分け、
皆さんは「ナオミとカナコ」の中国人社長、李 明美をご覧になりましたか?
圧巻の中国人像を造形した確かな演技力……。

冒頭にも書きましたが、鳴り止まない拍手、舞台に駆け寄る人々……。
そして何より「頑張って!」の声援。これからも女優道を極めて欲しいです。


2016年10月4日


ブノワ。


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コメント

 

黒柳さんが舞台に?
マチネしかないのは無理もないかも。あの年齢だから。
と言っても舞台俳優さんは高齢になっても舞台に立ちますね。
指揮者なんかもそうだけど袖では支えられないと立てないほどの人が、
舞台に出ると何かが取り付いたようになるとか。
デモーニッシュだけどそれが喜劇をやったらそれは凄い。
っていうか、そんなすごい喜劇なら、だけど。

ブノワ。さんはほんとによくお芝居を見る人だけど、
映画のようにはバッサリと切りませんよね。
あーーつまんなかった。って言わないものね。
昔見た物もよっく覚えてるし。
それは何故なんだろうとまた思ってしまいました。





ムー #qiVfkayw | URL | 2016/10/04 21:39 | edit

食い倒れになっちゃったけど

こんばんは。ブノ。ちゃん。
あけも今夜、「レティスとラベッジ」を見に行った話をブログに書いたんだけど、
何故か、食い倒れの話になっちゃいました。
写真、使わせて頂きましたぁ~!!
あけも「レイ」の写真とかあったら、
芸術の秋っぽい記事になったかもしれないんだけどね。

あけ

あけ #HnKya1mw | URL | 2016/10/04 22:56 | edit

私は

黒柳徹子も麻実れいも良かったけど。徹子さん滑舌悪いとも感じなかったけど。

トワリー #73kS80lo | URL | 2016/10/05 08:37 | edit

やはり

麻実れいはよかった。
さすが。だから黒柳徹子ばかり評価されて、麻実れいへの評価が誰もかれもそっちのけだったのは他の数々のブログ読んでいて腹が立った。
「TVへ出てる人生でみられるから」「TVに出てる人=上手い」っていう垂れ流し享受を見ていると「日本の観客は愚衆だな」と感じました。

トワリー #0A.5i4Ks | URL | 2016/10/06 02:21 | edit

コンスタントですよ。

ムーさんへ。
おはようございます、メッセージどうもありがとう。
チョッとバタバタでお返事遅くなっちゃった……ゴメンなさいね。
徹子さんの舞台はコンスタントですよ。今回で30作目。
確かに殆どマチネなのは仕方がないのかもしれませんね。
でも、そうなると昼間働いている人は殆ど無視されたようなもの。
それにしたって夜の回が1回しかないってバカにし過ぎ(苦笑)
夜の部が4時開演とかね……どうやって見に行くのじゃ!(怒)
週末があるじゃないって言ったって、他にも用事が沢山あるじゃないですか?
最近の芝居って上演期間が短いし……慌てて初日の夜に観劇です。
舞台の魔力でしょうね……足下がおぼつかない老俳優がシャンとするのは。
杉村さんの「欲望〜」も凄かったですよ。晩年は、
北村和夫さんに支えられないとカーテンコール出来ないくらい。
当時はまだカーテンコールで花束を渡せたのね。
杉村さん「まぁ、アナタありがとうね。」と言いつつ、
片側では北村さんがしっかりと腕を掴んでいましたっけ……。
それが本番ではヒール履いて八百屋の舞台(前方に傾斜している)を走り回るんだから……。
そう言ういいものを沢山観たいですね。なかなか難しいけれど。
演出も老俳優なりのものに変えているでしょう?
白石さんも平さんも椅子に座ったりしているシーンが多くなりましたよ。
映画のようにバッサリ……そうですかね。そうかもしれない。
やっぱりしがらみ?(苦笑)良くなかったものは一切書かないんですけどね。
昔、可愛がって貰っている女優さんに言われました。
「アっちゃんの批評が一番コワい。」って。
良くないと一切語らないのでスグに分かるそうなんです(笑)
だって、良くないものを嘘で誤摩化しても本人には覿面に分かっちゃうし。
映画、演劇に関わらず、矢張りそこには作り手への愛情も感じますしね。
一つの作品を作るのって大変だもの。
でも、反面、高いお金を払って時間を割く訳だから、
当然、見る目も厳しくなっているのはしょうがない。
それにあちらもプロな訳だから最高を目指して貰わないとね。
忙しいけれど今夜はクラシック、明後日は芝居……続きます。

ブノワ。

ブノワ。 #- | URL | 2016/10/13 07:00 | edit

知ってる(笑)

あけへ。
おはよ。メッセージ大儀であった(笑)
食い倒れ?知ってる。だってそちらは食い倒れのブログじゃない(笑)
そんなこと言っててなんなんだけどさ、「レティスとラベッジ」って、
「レタスとキャベッジ」って感じじゃない?(笑)1回それを思ったら可笑しくてさ。
写真、暗かったのであんなもんで勘弁ね。1枚1000円だからね!
しかしあの店は強烈だった(苦笑)2度と行かないけど真面目に社会勉強だったよね。
世の中には知らないところが沢山あるもんだ。

ブノワ。

ブノワ。 #- | URL | 2016/10/13 07:14 | edit

ようこそいらっしゃいました。

トワリーさんへ。
はじめまして、ようこそいらっしゃいました。
僕は11日に2度目を観て来ましたよ。場内満席!
改めて徹子さんの人気を再確認です。
僕は「日本の観客は愚衆」とは思わないのですが、
色々なタイプの演劇があるって言うことでしょうね。
最近は舞台人として訓練されていない集客力のあるタレントが多用されます。
顔見せ的興行?仕方ないのかもしれません。
どの世界でもそうですけど、本物を知る人がいなくなったのも事実です。

ブノワ。

ブノワ。 #- | URL | 2016/10/13 07:19 | edit

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