キャロルとリリー。 

 

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映画「グランドフィナーレ」を観る。

映画は矢張り映像で見せるもの。僕はそう思います。
気のきいた台詞は作品を印象付けるスパイスになるけれど、
テーマを蕩々と喋られたのでは興醒めなこと甚だしいです。
フェリー二を思わせる美しい映像が積み重ねられます。
原題の「Youth」はこの作品の大事なテーマです。
引退した主人公、音楽家で指揮者のフレッド・バリンジャーと、
同じく高級リゾートに逗留している映画監督で、老いることを否定し、
取り巻きの若者たちと新しい映画の脚本を執筆中のミック・ボイルをはじめとして、
若さと老いのキャラクターの対比が作品の全編に見られます。
決して、見かけの年齢ではなく、心の様相……青春とはそう言うものだと語りかけます。
中にはジェーン・フォンダ演じるオスカーを2回受賞した大女優ブレンダ・モレルのように、
老いを厚化粧とカツラで隠しながらも、痩せて筋張った手や厚化粧からのぞく醜悪な素顔をもって、
自らの中に追い求める若さとどうにもならない老いを、
1人の中で複雑に表現するキャラクターもいます。
映像で淡々と語られる中で、たった2ヶ所、登場人物が感情を露にするシーンがあります。
ブレンダがミック対峙し「新作には出ない、あなたはもう終わっている」と宣告するシーン、
加えて、帰りの飛行機の中で「下ろせ!ミック、許して!」とCA相手に大立ち回りをするシーン。
それからフレッドの娘のレナが父と泥パックを受けながら、
自らの家庭、子供時代の不幸さを初めて父にぶつけるシーン。
静かなシーンが多いだけに、この言葉による相手への攻撃は強烈な爆弾のようです。
レイチェル・ワイズのアップのみで進行するシーンである手紙のことが明らかにされます。
フレッドがその昔、恋した「男」に宛てた手紙、母も私もそれを読んだと詰ります。

「男」にラブレターを認めた事実は、フレッドの音楽家(芸術家)としてのキャラクターに、
奔放さ、複雑さと陰影をもたらし、芸術家の深淵を覗かせるキッカケになっています。
久しぶりに映像を満喫した作品。マイケル・ケインとハーベイ・カイテルが老境の素晴らしさ。
矢張り、役者は最晩年にその評価、価値が分かりますね。

「グランドフィナーレ」……★★★★★★★☆……75点。



ここで、ゲイ、所謂トランスジェンダーが主題の作品についてチョッと……。
登場人物の中にゲイがアクセントで出ている映画は除き、
矢張り圧倒的に素晴らしかったのは、群を抜いて「ブロークバック・マウンテン」でしょうか。
その感動は、終盤のクローゼットからイニスのシャツが出て来た時に最高潮に達します。
劇場内に響き渡る慟哭、嗚咽、すすり泣き、大きく揺れる椅子……。
これほどまでに人の心を揺さぶる作品は稀でしょう。
戯曲が原作の「真夜中のパーティ」「トーチソング・トリロジー」、
それからアジアから「ブエノスアイレス」と「さらばわが愛 覇王別姫」……あたりが白眉でしょうか。
「ブロークバック・マウンテン」もアン・リーが監督ですから、
弦楽器と同じく、ゲイがテーマの映画はアジアの作家たちに相性がいいのかも……。

マイノリティーであることからの迫害や苦悩、厳しい生き様を、
正面切って描く作品よりも、それはごく当たり前として捉え、
淡々と物語の中に組み込まれた作品に秀作が多いです。
ゲイも数ある愛情表現の中の1つとして淡々と捉えた作品に傑作が多いようです。



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さて、時計を少し戻しましょう……。
3月に「キャロル」と「リリーのすべて」を観ました。
両作品とも本年度のアカデミー賞に絡む力作……と、言われていました。
いそいそと劇場に足を運びましたが、さて、その出来映えは……。


「キャロル」……。
まさに満開を少し過ぎた絢爛豪華、馥郁たる薔薇のようなケイト・ブランシェットと、
瑞々しく開きかけた蕾のように匂い立つルーニー・マーラ。
「キャロル」は久しぶりに美しい女優を堪能する作品でした。
公開前は絶賛の嵐でしたが、どうでしょう……。
矢張り「ブロークバック・マウンテン」などと較べると凡作の謗りは免れません。
撮影は雰囲気のみ、凡庸で褒められませんが、
ケイト・ブランシェットの美しいこと!女性2人の恋愛をプロモーション・ビデオよろしく、
フィリップ・サルドに似た流麗な音楽で上っ面だけ演出した凡作。
ケイト・ブランシェット自身がプロデューサーを兼ねているのも、
作品全体に甘くなり、厳しさが欠けた原因でしょうか。
浅い……兎に角、全てが上っ面の綺麗事。物事を厳しく見る第三者の視線は不可欠です。
そこには主人公の苦悩も悲しみもありません。
期待が大きかっただけにガッカリ感も半端ありませんでした。

「キャロル」……★★★★☆……45点。


「リリーのすべて」……。
およそ90年前、北欧デンマークの雰囲気を的確に再現した美術と衣裳が素晴らしいです。
ヴィルヘルム・ハンマースホイの絵画に出てくるような室内の装飾、
衣裳やセット……映画美術はどれを取っても一級品の出来。
欧米の作品は空気までその時代になってしまうところが凄いです。
エディ・レドメイン好演。化粧した姿が全く美しくないところが却ってリアルです。
同じく画家である妻ゲルダのモデルを務めてから、己のなかの「女」に目覚め、
女装することにより己に真正面から向き合うことになります……。
繊細なエイナルから、新しい性におののきながらも生き生きとしたリリーへ……。
さながら蛹が蝶に羽化する様は見事だけれど、エディ・レドメイン、
少々なよなよと小手先の演技に終始したきらいがあるのも否めません。
劇場の衣装室で鏡に向ってエイナルが全裸でリリーになった暁の身体の変化を想像するシーン、
映倫よ、よくぞボカシを入れずに見せてくれたと思います。
アカデミー助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデル……チョッと過大評価かな。
エイナルが描く風景画……素敵です、欲しいかも。
原題の「Danish Girl」が実は性転換したエルベのことではなくて、
実際は彼を最後まで愛し、見届けた妻ゲルダだと気付かせるラストが秀逸です。

「リリーのすべて」……★★★★★★……60点。


今日の1枚目の写真は、随分前になりますが、
西武ドームで開催された「国際バラとガーデニングショウ」で、
大野耕生さんがアレンジしたブーケだったかな……。
2枚目は確か「横浜イングリッシュガーデン」で撮った1枚です。


2016年6月2日


ブノワ。


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コメント

 

こんにちわ。

こんにちわ。今日は、ものすごく心地よい湿度のない涼しい6月のそよ風
です。

グランドフィナーレ、こちらでも上映されるか調べてみます。キャロルは、
マスコミでだいぶ絶賛されていましたよね。それなのに、見逃してしまい
ました。

4月からの10時からの映画、まだ見ていないのです。時が過ぎても、黒澤映画が、残っています。素晴らしい映画でした。

ブノワ。さんの映画評を参考に、チェックしてみますね。よい映画を、今年多く見られるといいのですが。「リリーの全て」もチェックできたら・・・・・・。

友達は、レンタル派なので、もっぱら映画は一人で、じっくり見ています。

映画のこと、また教えてくださいね。

愛 #pdK/Zy5g | URL | 2016/06/05 14:24 | edit

そうなんだよねぇ……。

愛ちゃんへ。
メッセージどうもありがとう。元気にしている?
こちらは梅雨入りしちゃいました……過ごしやすい陽気だったのに……。
「グランド・フィナーレ」は新潟でやるんじゃない?
東京にいると何でも観られて当たり前と思うけど、
そうなんだよねぇ……上映されない作品もあるんだよね。
月末からでしょう?良かったら観に行ってみてね。
「キャロル」は本当に肩すかしでした……雰囲気だけね。
僕のケイトは超絶綺麗だったけど、ルーニーとのラブシーンはいらないかな。
何事もそうだけど、第三者の厳しい目で見ないとダメなんですよ。
舛添じゃないけどさ(アレは第三者の厳しい目じゃないです。自分で選んで何が第三者だ!)
戯曲家とかが自作を演出するじゃない?それもダメなんですよ。
余程のことがない限り、アマアマの作品になる。
「新・午前10時の映画祭」も被る作品が多くなって来ましたよね。
この前「マイ・フェア・レディ」観た……詰まらん!(苦笑)
楽しみにしている作品も何本かあるんだけどね……。
映画は1人に限ります。上映中は話さないし、
観終わった後にあれこれ喋って感動が薄れることもあるし(笑)
映画はねぇ……書かなきゃって思いつつ(20本くらいある……。)
このブログで一番反応が薄いから詰まらないのだよ。
その割に書く時に色々と調べたりして大変だしね……。
なるべく書くようにします……なるべくね(苦笑)

ブノワ。

ブノワ。 #- | URL | 2016/06/06 07:55 | edit

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