「東京物語」と茅ヶ崎館。 

 

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旅の形態は様々です……。
純然たる観光目的、親孝行の里帰り、新婚旅行、出張や研修、
忙しいお父さんが時間を遣り繰りした家族旅行。
仕事絡みの旅も、心して自分で時間を作ればそれなりに面白いものです。


水温む3月……初日にチョッとした趣向をこらした旅をしました。
半年前から企画です。今回は、パリに溺れ、カブレ、恋した3人(笑)
親友Tと、麗しのパリで出逢ったのに、僕と奇跡的に何事も起こらなかった美女M(笑)
そして僕の3人は、先ず、朝、待ち合わせて、
錦糸町で小津安二郎監督の傑作「東京物語」を観ました。
僕は3回めの鑑賞、友人たちは初めてだったようです。

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劇場下のビストロでランチをした後は、一路、茅ヶ崎を目指します。
3人とも良く食べることも一緒に行動していて気持ちのいい部分です。


そう、今回の旅は、小津安二郎監督の足跡を訪ねる旅でした。
「東京物語」を鑑賞した後、監督が脚本を書いたゆかりの宿、
「茅ヶ崎館」の二番の部屋……監督が毎回半年ほど籠って執筆した部屋に泊まると言うもの。
二番の部屋では、「東京物語」をはじめ、「晩春」「麦秋」「早春」「お茶漬けの味」……。
そうそうたる名作の脚本を、野田高梧や柳井隆雄、池田忠雄などと執筆されたのです。

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驚いたのは、宿の料金からして期待していなかったお料理……。
一品一品丁寧に作られた料理が頃合いを見て運ばれて来ます。
決して品数は多くないけれど、最近、ありがちなガジャガジャ見てくれだけは大仰で、
その実、味は大したことがない旅館と違い、どの料理も品よく塩梅も素晴らしかったです。
モナカ……パッリパリでした。それがどれだけ凄いか分かるでしょう?(笑)
夜も更け、辺りはひっそりと静かに、僕たちの楽しげな会話が、
映画の感想、俳優のあれこれ、茅ヶ崎の街並について……穏やかな声だけが響き渡ります。

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一番上の椿の一輪挿し……。
こう言う写真を見ると、以前、楽しく拝見していたブログ、
「一花一葉 by アツシ」さんを思い出します。今はどうされているのかな?

早朝は風呂に浸かり、日々の疲れを取った後は、
チョッと資料部屋に籠って小津安二郎関連の本に目を通します。
小津監督をはじめ、勿論、原 節子や高峰秀子、高峰三枝子、京マチ子……。
そうそうたる日本映画史上の大スターが訪れた「茅ヶ崎館」。
小津監督が親しい仲間だけに自ら振る舞ったとされる、
カレー味のすき焼きによって飴色に変わった二番の部屋の天井……。
原節子がお姉さまと泊まったと言う十一番の部屋は、
松が美しい庭を挟んで小津監督の部屋の向かい側になります。
今の日本映画の現状を考えるに、世界に誇る日本映画の黄金期の一コマを覗き見たような、
活気があった日本映画界の幻を見るような、何とも感慨深い旅となりました。

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 「小津先生は、原節子と初めて会った時、少年のように頬をポッと紅く染めた」

「東京物語」は今から63年前の映画になります。
折りある毎に発表されるオールタイムのベストテンでは常に上位にランクイン。
英国映画協会の2012年の映画監督が選ぶベストテンでは、
栄えある1位に選ばれるなど、世界が認める日本映画の最高峰です。


白黒映画、特に大きな事件が起こる訳でもありません。
相手の台詞が所々で繰り返されることで、絶妙のリズムが生まれます。
台詞を言う俳優を真正面から写し、丁寧にカットが重ねられて行きます。
非常にゆっくりのリズムなんですが、尾道から両親が出て来るところや、
2人が熱海の温泉に行くシーンなどは大胆にカット……ポンポンと、
場面が切り替わることで単調な中に、大きな時間の移動を作ることで、
見るものを飽きさせず、グイグイと最後まで引き込む魅力があります。

尾道在住の老夫婦(笠 智衆、東山千栄子)が末娘(香川京子)を残し、
子供たちに会うために東京にやって来ます。途中の大阪には三男(大坂志郎)が、
そして東京には長男夫妻(山村 聰、三宅邦子)と長女夫妻(杉村春子、中村伸夫)、
そして戦死した次男の嫁、紀子(原 節子)がいます。
そこで起こる様々なエピソードを通して、終戦後の日本、変わりゆく親と子の関係、
人と人の関係を静かな中に見事に描いた傑作です。


老夫婦がしみじみ言います。

 「あの子も昔は優しい子じゃったのに……。」

東京で「うらら美容院」を経営する長女、志げ(杉村春子)に対してです。
志げは、美容院経営とは言うものの、働かない、所謂「髪結いの亭主」を抱え、
何かと遣り繰りに困る生活を送っています。

 「豆ばかり食べてるんじゃないわよ!」

と、夫の小鉢を取り上げ自分で食べてしまいます。
完全にかかあ天下、そんな中やって来た両親を歓待しつつも、
どこか現実に目が向いてしまいます。長男とお金を出し合って両親を熱海にやるも、
スグに帰って来てしまい困惑。ついつい気の優しい義理の妹、紀子に世話を頼んでしまいます。
そして、2人が帰った後、スグに届く母危篤の知らせ……。
遠い尾道に出向くのに、念のため喪服を用意して行く志げと兄の幸一。
まさか亡くなるとはつゆ思わず喪服の用意をして来なかった紀子と対照的です。
葬式の後の精進落としの時、早速、亡き母の着物を形見分けに所望する姉、志げと、
一緒にさっさと帰ってしまう兄、幸一を見て末っ子の京子が紀子に愚痴ります。
他人の方がもっと優しい。2人とも自分勝手で悲しい……と。
 
 「仕事がある?それなら、お義姉さまだっておありになるじゃありませんか……。」

それを諭す紀子、大人になればそれぞれに生活があり、皆、大変なんだ……と。
志げにしてみれば、改めて遠くまで形見分けを取りに来る面倒、また、
京子にわざわざ送らせる手間を考えれば、しごく真っ当な物言いなのだけれど、
1人最後まで母と暮らした京子にすれば、何とも大人は冷たく勝手に映るのです。


杉村春子、気丈でチャッカリで計算高くて……ギスギスした中年女をやらせたら天下一品です。
そんな現実的でしっかり者の反面、母が長いことないと知りさめざめと泣きます。
一転して形見分けの所望、風に吹かれる木の葉のような感情表現が見事です。

東山千栄子と杉村春子……日本の演劇界の大女優の競演も嬉しいです。

「東京物語」……★★★★★★★★☆……85点。



旅の形……それぞれですね。
うららかな春4月にはまた面白い旅を企画しています。
それまで年度末を乗り切れるように頑張るとしますか……。


2016年3月7日


ブノワ。


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コメント

 

いいえ、ワタクシずるいんです

ブノワ。さま、ごきげんよう。
小津安二郎監督を偲ぶ旅にお出かけでしたのね。
茅ケ崎館のお料理は、地場のモノを使っているのでしょうか。美味しそう。
『東京物語』いいですね。
男女のいんぐりもんぐりシーンも、戦闘シーンも無い穏やかさの中に、
昭和の日本、昭和の東京、昭和の家族が描かれていて。
東京物語ごっこ(?)をするなら、ワタクシ紀子やりますよ(殴)
「いいえ、ワタクシずるいんです」言わせてください。
あ、違った意味になるだなんておっしゃらないでね(笑)

Coucou #NMJSpOmY | URL | 2016/03/08 19:18 | edit

茅ヶ崎にこんな旅館があるんですね。
撮影所が大船だったから?
検索してみるとお料理だけ頂くことも出来るんですね。
椿の花がよく見ると違う種類。
かざり棚には懐かしいような灰皿。
本棚も普通の家の本棚の大きさだし、窓枠が木!
昔にタイムスリップしたような気になりませんか?
ただの旅館じゃなく小津監督の資料館でもあるんだ。

いろんな旅があるけど題名が付くようなこんな旅は静かで濃いなー。

茅ヶ崎、サザンだけじゃないのね(笑)






ムー #qiVfkayw | URL | 2016/03/09 18:36 | edit

素敵な旅ですね~♪

なんて、お洒落な旅でしょう!
私も、こんな旅がしてみたいです。
私だったら、どんなテーマで旅するだろう~?

友人のデビット・ウェルスさんは、小津安二郎監督の映画に憧れて、日本に来たといっていました。
この回のブログを呼んで、なんとなくデビットさんがそう考えた理由を感じました。
デビットさんのお料理、とても美味しいです。
たまに、デビットさんお料理の会を開くので、
ブノワ。さんも遊びにいらしてください。
小津安二郎監督の映画でお話が弾むと思います。

おめめ #oWMM.ioY | URL | 2016/03/10 13:31 | edit

そうよ、アナタずるわよ(笑)

Coucouさんへ。
おはようございます。メッセージどうもありがとうね。
日曜日、如何お過ごしですか?お目覚めパッチリ?(笑)
僕が一番好きな監督は市川崑なので、
小津監督にはそれほどゾッコンではありませんが、
作品は凄く好きなんです。あと、小津監督の顔ね(笑)
CGとか何もありませんでしたね。男女の色恋、劇的な事件。
それでも終戦後の混乱と変わって行く人間がキッチリ描かれていて、
今の日本映画のテレビ化、あまりのくだらなさに愕然とします。
63年前の作品ですからね……日本映画は何も進化していない……。
紀子やりたいですか?(笑)そうね、Coucouさん、ズルいものね(笑)
僕は杉村春子でいいです。いいですじゃないな、是非、やらせてください(笑)

ブノワ。

ブノワ。 #- | URL | 2016/03/13 08:14 | edit

サザンだけじゃないみたいです(笑)

ムーさんへ。
おはようございます。いつもメッセージありがとう。
寒い日曜日になりましたね……如何お過ごしですか?
茅ヶ崎館……ズゥ〜っと前から気になっていました。
大船が近いこともあるでしょうね。海岸も今と違って良かったみたいだし。
お料理が本当に良かったんです……チョッとビックリ。
旅館ってお値段と料理は比例するじゃないですか。
入り口近くに応接室があるのね、そこには、
小津監督が愛用していた徳利なども飾られ、関連書籍も揃っていました。
「午前10時の映画祭」で「東京物語」をやることが分かってから、
この企画を温めていました。たまにはいいでしょう?こんな旅。
ところで、矢張り茅ヶ崎はサザンみたいですよ(苦笑)
そこここにサザンの名前がついたものがありましたから。
でも、ファンってそれ目当に茅ヶ崎に行くのかしら?
大いに疑問ですよねぇ……僕は百恵の名前が付いていたって行かないですもん。
今年は決めたんです。月に一回は泊まりがけで小旅行。
4月5月は決まっていて、夏もほぼ決まり。
さぁて、6月はどうするかな?そんな感じです(笑)

ブノワ。

ブノワ。 #- | URL | 2016/03/13 08:21 | edit

ありがとう!

おめめちゃんへ。
おはようございます。メッセージどうもありがとうね。
冬の庭の作業は終わりましたか?僕はこれから(笑)
今回の旅はなかなか良かったですよ。テーマがしっかりしていてね。
おめめちゃんも色々と企画して旅をするのが好きですよね。
ボクちゃんが大きくなったらまた復活して企画を立ててくださいね。
デヴィッドさん……覚えていますよ。穏やかな方。
小津監督に憧れて日本にいらしたのなら茅ヶ崎館は知っているかもしれませんね。
是非、お泊まりになるといいです。小津監督の違った一面が見えるかも。
デヴィッドさんのお料理、美味しいそうですね。
機会があったら是非!楽しみにしています!

ブノワ。

ブノワ。 #- | URL | 2016/03/13 08:26 | edit

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