元禄港歌ー千年の恋の森ー。 

 

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 ほんま、焦りましたんや……。
 何を焦ったかて、チケット、1枚も残ってませんでしたのや……。
 実はなぁ、おフランスに行くチョッと前に、文化村から先行予約の案内来てましてんねんけど、
 発売日がおフランスに行った翌日だったんどす……。
 まぁ、帰国してからで宜しいわ……そう思うてましたんやけどな、
 あんた、帰国して電話したら1枚も残ってない、完売やて……ほんまに焦りましたわ。
 色々と考えましたんやけど、結局、ないものは仕方ない、
 これも縁やった……そう思ぅて諦めてましたんやけどなぁ。
 新年になり、仲良ぅしている女優さんが「もしかしたら取れるかもしれへん……。」て。
 初めてどした、所謂「コネ」言うヤツを使うたのんて……。
 イヤでっしゃろ?なんや人のツテ辿って頭下げて……うち、そう言うの好かんのやけど、
 その尽力してくださるお嬢さんも感じ良かったし、
 ウチもどうしても観たかったんでお頼み申しましたんや。
 そのお嬢さんもあれこれ手ぇを廻してくれはって、
 結局、出演しなさっている女優さんにお願いしてくれはりましたそうだす。
 いやいや、それがなぁ……ほんまに素晴らしい舞台だしたんや……。 
 こう、真っ赤な椿が舞台一面を覆い、登場人物のように潔よぅ散りよるんですわ……。

  「梅は匂いや、樹ぶりはいらぬ。人は心や、姿はいらぬ……。」

 はぁ……ほんまによろしおますなぁ……。



今の演劇界は、少し前までみたいに、新劇、歌舞伎、新派、そして小劇場……。
そんな線引きが曖昧になり、歌舞伎のスターがミュージカルに出てみたり、
宝塚のトップスターが引退して演劇界で活躍するとか、今やそれぞれの世界が融合し、
演技の化学反応を起こし……て、いればいいのですが、なかなかその高みまでに到達することは少なく、
短い稽古期間と、所謂、何でもそつなくこなしてしまう(ように見える)若手の芸達者が増えたことにより、
プロデュース側、劇場側は、実績のある経験豊富なベテランを使うことなく、
客を呼べるタレントを思う通りにキャスティングてきるようになりました。
観客もそこまでは求めず、どちらかと言えば「顔見せ」的な興行が多いのが現状です。
劇場は常に満席、チケットは所謂「プラチナ・チケット」。立ち見が出ることも珍しくありません……。
それぞれのファンにとってみれば、間近で好きな役者やタレントを見られ、
それはそれで、わくわく心踊り、素晴らしい一時なのでしょうが、
だけど、果たしてそれでいいのか?……いつもそんなことを考えています。


今回の「元禄港歌ー千年の森の恋ー」……歌舞伎、新劇、映画、テレビなど、
各界から演技の達者な役者を集めての公演です。

播州……今の神戸で手広く商売を営む「筑前屋」は入婿の半兵衛(市川猿弥)の才覚で商売は繁盛、
家を取り仕切る家付きのお浜(新橋耐子)との間には、
信助(段田安則)と万次郎(高橋一生)の2人の息子がいます。
信助が5年ぶりに江戸から帰って来た時、丁度、座元の糸栄(市川猿之助)が率いる、
瞽女の一行が播州の港にやって来ます。何やら運命が急転する予感……。
冒頭はお決まりの人海戦術で舞台上ところ狭しと、港町の威勢のいい、
活気に満ちた町民の様子を見せる辺りは蜷川幸雄の十八番です。
長男、信助と瞽女、初音(宮沢りえ)の恋、次男、万次郎と歌春(鈴木杏)の人知れぬ道ならぬ恋……。
何やら訳有りのお浜と糸栄……そしてラストの能舞台のどんでん返し……。


糸栄を演じた市川猿之助の女形は見事でした。
若い娘ではなくて盛りを過ぎた年増の造形。
なさぬ子を思う母親としての気持ちの表現、三味線を弾く崩れた姿や唄の芸、
外連……どれをとっても当代随一でしょう。異業種の役者に交じって、
特に現代劇に演技を近付けることなく、そのまま歌舞伎の様式で芝居をします。
反対に長男、信助を演じた段田安則は、特に猿之助と一緒の場面などは、
非常に歌舞伎に近い様式美をもって演じていたところが面白いです。
それぞれが影響し合い、いつもとは違った自分を出しています……。

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さすがだと思ったのはお浜を演じた新橋耐子……。
「文学座」の大ベテランですが、彼女の場合は、いつもの芝居から離れ、
少し歌舞伎寄りに、猿之助の芝居に釣り合うように演じていました。
分かりやすく言うとチョッと新派っぽく「形」で見せる静の演技に。
振り替える時も、サッとおもむろに振り替えるのではなく、
肩ごしに顔を少しだけ後ろに向ける……その形の美しさ。
同じ子をなした女として糸栄を気遣い、労る気持ちと、
糸栄と夫が密通をして信助が生まれたという積年の恨み……。
この二つの相容れない気持ちを肩ごしの眼差しで表現する巧み。
溺愛する次男、万次郎と切れさせるために、歌春と職人、和吉の縁談を、
気のいい奥さまの顔で取り持ち、歌春の乱れた髪を、
優しい気持ちで自分の髪に差した櫛で撫で付けてあげるのですが、
その櫛をたとう紙で拭う時に、知らず知らずの内に思わず手に力がこもり、
たとう紙を力任せにくしゃくしゃに丸める辺りは、繁栄を極める商家の奥さまである自分と、
しがない瞽女で卑しい身分である歌春を、知らず知らずの内に差別し、
思わず沸き上がる侮蔑の感情を、映画と違ってクローズアップのない舞台において、
体全体で、大仰になるギリギリ手前で表現する匙加減が絶妙です。
舞台上にたった1人でピンスポットを浴びても、例えば、三幕三場、1人だけ能舞台に取り残され、
残りの全ての役者が前方で芝居をしていても(三角形の構図になり納まりがいい……。)
自分がメインで芝居をしていない場面でも、キッチリと受けの芝居をしている……。
杉村春子の「華岡青洲の妻」で末娘の小陸を演じた時がそうでした。
キッチリと終止受けの芝居をし、杉村春子演ずるお継ぎが亡くなった再終幕でも、
丁寧にして来たその受けの芝居が最大限に生かされ、
あたかもそこにお継ぎがいるような錯覚を覚えたものです。
劇場内を一つに纏め、観客の視線を一身に集めて決して逸らさぬテクニックは凄いです。
夫の不義理で生まれた、我が腹を痛めぬ長男、信助を引き取り育てた女の悔しさと、
矢張り、そうは言っても長年可愛がって来た信助が和助の乱心により盲目になり、
生みの母の糸栄と親子の対面を果たした後、沸き上がるホッとした安堵の気持ちと、
息子との今生の別れの寂しさの入り交じった感情を演じ分ける長けた術には脱帽です。
しかも彼女が凄いのは、笑のシーンではキッチリと、
どんなことをしても笑を取るテクニックを持っています。
その昔、ソフィア・ローレンが言いました。

 「人を泣かせるのは簡単よ。笑わせる方がもっと難しい。」……と。

思えば、「頭痛肩こり樋口一葉」の幽霊、花蛍役で一世を風靡し、
芝居に置ける「笑い」のツボ全てをコントロールするテクニックはお手の物でしたっけ……。



スター俳優が存分に、また、思いのたけを舞台上に繰り広げ、
あらゆる変化球を投げても、必ずそれを受けとめ、
的確にボールを返してくれる大ベテランの存在は大きいです。
各々が好き勝手に自分の芝居を演じていたら収拾がつかなくなりますからね。
宮沢りえ好演。但し、この美しい女優は、矢張り舞台より映像向きです。
舞台をやるには顔が小さすぎるし、特に鬘を被る時代物にはスタイルが良すぎます。


舞台、両袖から天井までをグルリと廻らされた深紅の椿の樹。
ボタ……ボタ……ボタ……演技中も間断なく落ちてくる椿の花。
辻村寿三郎の人形と着物、帯を前で締める元禄時代の既婚者の着方、
歌謡界の大歌手、美空ひばりの主題歌、最終幕の能舞台と背景に沈む真っ赤な太陽……。
故朝倉摂の舞台美術を再現し、各役者がそれらの額縁の中でそれぞれの「分」を演じ、
演技の化学反応、相乗効果が表れた希有な舞台です。
一つだけ残念だったのは、初音と信助が一目で恋に落ちる一瞬が見えなかったこと。
もう少し分かりやすく、初音は盲目なのですから……。


2016年1月26日


ブノワ。


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コメント

 

先日僕も「元禄港歌」見てきました。本当、立見が出る程凄い観客でしたね。猿之助さんの女形、本当に素晴らしいかったです。ちょっとビックリポンでした。新橋さん、再演とは言え、流石ですね。
 「人を泣かせるのは簡単よ。笑わせる方がもっと難しい。」確かに彼女の演技は、特別なものを感じました。正直、あまり蜷川さんの舞台は、好きではないのですが(汗)今回は、観て良かったです、ハイ。

T #41Gd1xPo | URL | 2016/01/26 10:50 | edit

「舞台、両袖から天井までをグルリと廻らされた深紅の椿の樹。
ボタ……ボタ……ボタ……演技中も間断なく落ちてくる椿の花。」

情景が浮かびます。
朝倉摂さんの舞台、圧倒的ですものね。

猿之助さんが亀次郎のころ「葛の葉」を見ています。
わけありの母親の役良かっただろうなと思います。

ところで蜷川さんの舞台で忘れられないのが「近松物語 それは恋」です。
随分昔、私もまだ若くて舞台慣れしていなく、
平幹次郎の顔ってでかーい!とか
太地喜和子そんなきれいじゃなーい、とか
ただのバカ娘だったころです。
舞台は大詰めの道行の場、
劇場も客席も降りしきる雪の中にしんしんと冷え、
そこへ森進一の「それは恋」が響き渡った(んだったと思う)
心をわし掴みにされるようなその歌。
思いがけない感動、噴き出る涙。立ち上がれなかった。
あざといなんてこと全くなかった。

ブノワ。さん是非若い女性を舞台を見に連れて行ってあげてください。
私も指南役の人がいて幸せだった。
若い時の経験はほんとうに一生ものだと思うんです。

美空ひばりの歌、どんなだったんだろう。
気になります。










ムー #qiVfkayw | URL | 2016/01/26 22:06 | edit

観ましたか!

Tさんへ。
こんばんは。メッセージどうもありがとう。
ご覧になりましたか……良かったですよね。
僕も蜷川幸雄は苦手なのです……非常に苦手かも(笑)
立ち見出ていましたよね……アレってお幾ら万円なんだろう……。
今回はプロが多かったから良かったんでしょうね。
周りは市川の人間で固めているし、手堅かった?
新橋さんはさすがです。もう強引に笑い取るしね(笑)
こういう舞台を観ると、つくづく舞台っていいなって思いますね。
今度何かご一緒しましょうか?声掛けしますね。

ブノワ。

ブノワ。 #- | URL | 2016/01/27 20:33 | edit

それがねっ!

ムーさんへ。
こんばんは。こんな記事にメッセージありがとう。
どこか意地悪な気分もあって、これは一つもメッセージ入らないだろうって(笑)
どんなボールも打ち返して来るムーさん、指南役が良かったのですね。
さて、お亡くなりになっている朝倉摂の美術が良かったです。
虎は死して……なんですね、キチンと作品として残っている。
歌舞伎の人たちって物凄いパワフルじゃないですか。
生憎、僕は歌舞伎と宝塚とバレエには縁がなかったけど、
猿之助みたいな役者を見ると、つくづくいいなぁって思います。
亀次郎の頃の葛の葉って「蘆屋道満大内鑑」ですか?
いいなぁ……ムーさん、キチンと身体に蓄積されている。
で、で、で、でっ!(笑)な、な、な、な、なんとっ!
来年の1月に「近松心中物語 それは恋」の再演がありますよ!
オリジナルの演出版だそうです。僕は一番最近の阿部寛のを観ているのね。
チケット争奪戦必死だけれど、絶対に観に行こうと思っています。
でも埼玉なんですよねぇ……観終わって帰るのを考えるとねぇ……。
「平幹二郎の顔ってでかーい!太地喜和子そんなきれいじゃなーい」……。
でも、ああいう役者っていなくなりましたよね。
顔は大きくないと舞台ではダメですよ。宮沢りえはスタイルよ過ぎ。
そうそう、大地喜和子に「ボクちゃん、いらっしゃい!」って、
酒の席で言われたんでした(笑)懐かしい思い出。
蜷川幸雄の舞台はどちらかと言うと敬遠しがちなんです。
初めの頃観た「NINAGAWA マクベス」とか「にごり江」とかは面白いと思ったし、
舞台にのめり込んで行く切っ掛けになったことも事実なんですが、
あの人海戦術……またそれかい?って。オール・メンズとかも嫌い。
だって、オール男でやる意味が分からないしね。
どうも僕の興味の対象から外れてしまった感があります……。
美空ひばりの歌は「YouTube」にも引っかからないのね。
素人のカラオケ版しか出て来ない……凄かったですよ、
場内に響き渡る大音量で鳴き節が……本当に凄い歌手でしたね。
ムーさん、その若い女性を連れて行く云々ですが、
それこそ今年から止めようと思うことの一つに入っているんです。
ホラ、お人好しは止めよう!です。芝居連れて行ってご飯奢って2万とかでしょう?
そしてたまにドタキャンされて……なんだか「?」なので御座います。
その分、自分で観たい芝居にもう一回行った方がいいやって……。
去年まで、そう言うことは十分して来たのでもういいかなって……。
来年の1月、感動を再び!どうぞいらしてみてください!

ブノワ。

ブノワ。 #- | URL | 2016/01/27 21:01 | edit

来年の1月に「近松心中物語 それは恋」の再演!!ですと?
凄い情報!
けど埼玉?・・・遠い。
そうです、帰りを考えるとね~
あのラストシーンもう一度見たければ最後のチャンスかー。
悩む。というよりチケットが取れないか(苦笑)

若い女性、そうでしたか。
そりゃ駄目だ(笑)
同じものを見せてもアンテナが鈍感な人はダメ。
ドタキャンなんて失礼千番。
大事なお金と時間をドブに捨てるようなものだわ。
そういう女は「やはり野に置けレンゲソウ」
レンゲソウに失礼か(笑)


ムー #qiVfkayw | URL | 2016/01/28 21:58 | edit

遠いの!(苦笑)

ムーさんへ。
そうなの、なかなかいいニュースだったでしょう?
ところが劇場を見てガッカリ……埼玉だもの。しかも埼京線。
埼京線はイケません……一番乗りたくない路線かも(笑)
前に撮影の仕事で2日間……泊まりましたよ、帰るの面倒だから(苦笑)
それにあの電車、スグに止まるじゃないですか。
でもそうなのね、チャンスって言うことで言えばそうかも……。
平さんで観てみたいなぁ……やってくれないかしらン?
チケットですけどね、誰か友達が出ていれば確実なんだけど……。
キャスト次第では左団扇なのにねぇ……。
幸運にも知り合いが出ていたらムーさんにも声掛けますからね!
レンゲソウねぇ……何だかハッと気が付くと疲れることが多かったんです。
若い女性だけじゃないですよ、いい年した男もね。
ご飯食べに行くのに金持って来ないんだよ!有り得ないでしょう?
何だかそれが当たり前のようになっちゃって……。
だって2万円稼ぐのにどれだけ大変な思いしているかねぇ(笑)
今年からもっともっと自分に投資することにしたんです(爆)
それに言うじゃないですか、映画や芝居は自分で金払わないと身に付かないって。
でも、やっぱりレンゲソウに失礼かもね(笑)

ブノワ。

ブノワ。 #- | URL | 2016/01/29 23:52 | edit

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