「おそるべき親たち」ふたたび。 

 

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まるで絵画のようでした……そう、ラ・トゥール、
ジョルジュ・ドゥ・ラ・トゥール……光と影の画家。
舞台奥にしつらえた巨大な額縁と薄暗い照明……。
特に蝋燭の灯りがそれを連想させたのかもしれません。

蝋燭の灯り……これほど明るいと思ったことはありません。
揺らぐ炎が役者たちの細かい表情をことさら浮き立たせます。
舞台にはない「クローズアップ」の技法。
この映画独自の表現方法が、俳優たちの丁寧な演技と、
中劇場と言う条件や巧みな照明のお陰で舞台上で再現されました。



春がそこまで迫った3月中旬、
待ちに待った「おそるべき親たち」の再演を観てきました。
僕は友人を連れて都合4回、合計32人を引き連れて、
類い稀な役者たちのアンサンブルを楽しんできました。
初演の素晴らしさ、麻実れいが読売演劇大賞を受賞した、
演技陣のクォリティーの高さは以前のブログにて書きましたね。

諸般の事情で再演が1年延びましたが、演出が熊林弘高、翻訳と台本が木内宏昌。
この、現在の日本で最も信頼のおけるコンビに加え、
5人の出演者……前回と同じ顔触れが揃い、いやがおうにも期待が高まります。

会場は俳優が一番嫌がる三方を観客席に囲まれた舞台、
しかも円形の舞台の中心がターンテーブルのようにゆっくり廻ります。
この戯曲のテーマは人間のエゴと欲望。
登場人物の中で唯一、イヴォンヌの息子のミシェルだけが無垢な心を持っている他は、
自由奔放で、息子を盲目的に溺愛する母のイヴォンヌ、
若い愛人に溺れ、捨てられそうになり地金が出る父のジョルジュ、
一家のしっかり者、理知的な叔母のレオ、そしてミシェルの恋人のマドレーヌさえ、
ギリギリの瀬戸際で己の保身、幸せのために策を弄そうとします。
緊迫した台詞のやり取りは、時折、織り交ぜられる、
ウィットに富んだ会話で笑わせる他は、一気に驚愕のクライマックスへ傾れ込みます。
鍛えられた役者の発声は後ろを向いていても、
囁くような小さな台詞でも観客席の隅々まで響きます。
後ろを向いていて、表情が見えなくても、ほんの半歩、後ろずさっただけで、
心の動揺や落胆、千路に乱れる心を表わす巧み。
手の表情や、落とした肩で気持ちの高揚を表現するテクニック。
最近、マイクロフォンを当たり前のように使う学芸会的な舞台が多い中、
鍛えられた役者の肉声の豊かな響きに酔いしれる贅沢は何物にも代えられません。
だって、マイクロフォンを使って台詞を言ったり、小手先で歌を歌ちゃって……、
それでミュージカルと言えるのかい?(苦笑)しかも決して上手くない(怒)
身体ガチガチ台詞棒読み、客席後方の一点を凝視して仁王立ち(笑)
歌なんて音程メチャクチャ、お金取って人様に聞かせられるようなレベルじゃないものね。
鐘1つ鳴らしてやりたいヤツばっか(笑)これだったら声が通らない僕にも出来る、
カラオケだったらアタシにも歌える……と、素人の僕たちに思わせる舞台が多いです。

テレビで見る俳優や歌手を生の舞台で間近に見られる……。
ファンにとってはこの上ない喜びでしょう。ことによっては人生のハイライト?
観客動員が見込めるタレントを掻き集め、てんでバラバラのアンサンブル(笑)
舞台のクォリティは兎も角、連日〜劇場が満員御礼になれば劇場側もウハウハです。
今の劇場やテレビ局がプロデュースする舞台はこの形。
ロビーに溢れんばかりに飾られた盛大な楽屋見舞いの花は、
見事で盛大であればあるほど業界内の内輪受けにしか見えません。
このままでは日本の舞台の行く末は?そんな風に思うのは僕だけでしょうか?
マイクロフォンを通した役者の声……あまり好ましいとは思いません。
日比谷の某劇場は、役者の声が全て舞台下手から、
音楽が上手からハッキリと分かれて聞こえてくることがあります。
役者は上手で台詞を言っているのに声は下手から聞こえてくる……この不自然さ!
それから役者の声が掻き消されてしまうほどの大音量の音楽を使う必要あるでしょうか?
先ずは役者ありき、音楽は役者を引き立てるためのものなんじゃない?


「おそるべき親たち」の原作は読んでいませんが、
主役は叔母のレオです。彼女の失われた23年の愛情への復讐と、
再び愛を取り戻そうとする葛藤が描かれています。
5人の素晴らしい俳優が揃ったことにより、レオ以外の役が膨らみ、
思いもかけなく絶妙なバランスが出来たのではないか……僕はそう想像しています。

佐藤オリエは一家の大黒柱、良き理解者レオの仮面の陰に隠れた欺瞞と情念を熱演。
レオの着る衣装は濃いグレーから黒で統一されていましたが、
その裏地や靴の裏、スリップの肩紐、手袋、そして口紅とマニュキュア!
ひた隠した情熱を表す真紅が使われています。
それらが見事にレオの心情を表す手助けをしているのね。
もうお見事!素晴らしい仕事をしたのは原まさみ。
衣装とかメイクとか、音響とか、本来、役者を助ける裏方の仕事って、
こう言うプロの仕事のことをいいます。役者を顧みずそれだけが突出していちゃダメなんですよ。
中島しゅうは、ひょうひょうと、いかにも愚かな父親、夫を好演。
誰だったかなぁ……あのヨレヨレ感がいいって言っていたのは(笑)
中島朋子の技巧!この人は声がいいなぁ。
自然で奥行きの深い演技は父と息子の間で揺れ動く女心を見事に表現していました。
3年前、鮮烈な舞台デビューを「おそるべき親たち」初演で果たした満島真之介は、
新鮮さを失うことなく無垢なミシェルを熱演。
老練な他の4人の役者の触媒として晴れ晴れとした青年像を構築。
手垢がつかず、どうぞこのまま育って欲しいです。

さて、イヴォンヌを千変万化の移ろいで、時に儚く、時に猛々しく、
優雅に体現した麻実れいの大きさ。この大河の流れのような雄大さ、
希有な女優の個性(エレガンス)は唯一無二です。
麻実れいが円形の舞台をおり、こちらに歩いてくる様は、
まるで殺人の呪いに取り憑かれたマクベス夫人のようでした。
兎に角、美しくてゴージャス!
最愛のミシェルが無断外泊して心千々に乱れる母親から一転、
ミシェルが帰ってきた時の抑えきれずに浮かべる笑顔!
ミシェルに恋人ができたことを知った衝撃の後、実は事の真相を知るに及び、
萎れる息子を傍らに、吹きこぼれるように笑いを禁じえない姿は絶品です。
これほど素晴らしい大女優に薔薇の名前を戴けただなんて、
なんと言う幸せなのでしょう……でも、改めて恐れ多かったりして。

一つだけ残念だったのは、初演が3年前のことなのでハッキリ記憶がないのですが、
各々の愛情表現が少し度を越していたように感じたのは僕だけでしょうか。
もう少しヴェールに包み、オブラートに包んだ方が、より優雅でコクトーの文学の行間を、
観客が各々自由に読み解く余地があって良かったのではないか……僕はそう思います。



今日の写真はある雑誌掲載のために撮った1枚。結局ボツでした(笑)
蝋燭の炎はいいですね……揺らぐ光と陰が、
素晴らしい役者たちの演技とシンクロして効果抜群でした。

「お手伝いだったわ……何もすることはないって言っておいた。
  もう綺麗に片付いていますって……。」

最後に1つ……ラストシーンのレオの幕切れのセリフを聞くと、
ジャン・コクトーが三島由紀夫に与えた影響の大きさを感じずにはいられません。
三島由紀夫は戯曲を最後の台詞から書くと言われています。
コクトーのスタイルに心酔した三島由紀夫の姿が見えるようです。

芝居はいいなぁ……なかなか心からそう思える舞台は多くはありません。
役者の肉声、打ち震える身体、同じ空気を吸う快感を貰える舞台は稀有です。
また学芸会か……そう思いつつも、いつかまた素晴らしい経験が出来ることを、
期待しながら劇場巡りは続くのです。


2014年4月3日


ブノワ。


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コメント

 

こんばんわー

素晴らしい舞台だったんですねー、ブノワ。さんの興奮を抑えた解説で想像しながら読み進み、そこに舞台があるような感覚をあじわいました~
5人がそれぞれ主役なんでしょうね、中島朋子さん・・雰囲気のある女優になりましたね、イザベル・アジャーニと重なります。麻実れいさんはそこに居るだけで華がある人・・女優になるべくして生まれた人はこういう人なのかなと思わせる人ですね~
ろうそくのうす暗い炎の中で鮮烈な個性の競演・・楽しまれたことでしょう♪

東京にいた20年間で、後悔することは舞台や美術館に殆ど行ってなかったこと・・行こうと思ったら「その時」ですね♪♪

白いねこ #nHXnN9n2 | URL | 2014/04/05 19:14 | edit

ブノワ。さま、こんにちは。
蝋燭の炎は揺れるから、さらにイイ。
ココロの揺れや情念の炎を表現するには、蝋燭ですわ。メラメラ。
そうそう、レオの衣装、赤が効いていましたね。見逃しませんよ。
レースに透ける下着のストラップに靴の裏底・・・。
イイお席で見るべきとこは、あんなトコばかりではありません・・・ね(汗)


Coucou #NMJSpOmY | URL | 2014/04/06 13:55 | edit

ブノワ。さん、こんばんわ。

本当にどの場面も絵画のようでした。
額縁は彼らが住む世界。
イヴォンヌの黒と蝋燭の灯の部屋、マドレーヌの明るい白い部屋
彼らが互いに依存し依存され、無意識に支配し支配され、微妙なバランスを保っている輪舞。
(誰かの役のどこかに自分のどこかが重なる。)
最後の台詞のように綺麗に片付いた。。。。?? 
輪がちぎれたその先を妄想するとぞわぞわしてきますわ~。

佐藤オリエさんは映像の中では大人しい役が多いけど、舞台魅力ですね。
麻実れいさんの爪先の美しかったこと!!! 爪先まで女優!きゃっ♪

かな。 #AaIT8m4I | URL | 2014/04/07 21:45 | edit

そうなのね。

白いねこさんへ。
おはようございます。メッセージどうもありがとう。
そうなんです、素晴らしい舞台でした。
東京では毎日~数え切れないほどの公演がありますが、
今回のような舞台は本当に稀、殆どないといってもいいでしょう。
よく地方に住む友人たちに聞きますが、
矢張り、東京は恵まれていますね。それが当たり前になっちゃっていますね。
もう少し感謝してアンテナを張り巡らせて、
時間を大事に足繁く通わなければダメですね。
そう「その時」なんですね。

ブノワ。 #- | URL | 2014/04/10 11:01 | edit

あんなトコ?(笑)

Coucouさんへ。
おはようございます。いつもメッセージありがとう。
春ですねぇ……元気にしていますか?
あのレオの衣装の赤、やはり女性は気付きますよね。
男って殆ど気が付かないんじゃないかな?
役者と観客席が近い劇場だからこそもありますね。
演劇って役者が華だけど、衣装とかヘアメイクとかね、
役者の演技を助けている諸々の要素ね、これが楽しい。
本当にいい仕事だったと思います。専門家に失礼だけどね。
ところで「あんなトコ」ってどんなトコ?
Coucouさんの鼻の穴がまん丸の500円玉大になっていたのが見えましたよ(笑)
また遊びましょ!楽しみにしていますね。

ブノワ。 #- | URL | 2014/04/10 11:07 | edit

その先ですよね。

かな。さま。
おはようございます。メッセージ恐縮です。
暖かくなってきて、そろそろお出かけのシーズン。
今年の計画は立てましたか?また一緒に遊びましょうね!
さて、4月は演劇シーズンの開幕らしいですね。
観たい作品が沢山ですが、観劇料とかを考えるとなかなかね。
断腸の思いで選ぶわけですがコケることが非常に多い(苦笑)
そんな中、再演を待ちに待った「おそるべき親たち」。
非常に堪能しました。やっぱり演劇ってこうじゃなきゃ。
かな。さまは誰のどこと重なったのかな?
僕は純真無垢なミシュルそのものでした!あはは。
オリエさんは昨秋の「秋のソナタ」も拝見しましたが、
なかなかどうして、作品を選ぶ確かな目をお持ちですね。
麻実さんのつま先ね。かな。さまは爪の先まで豪華薔薇マダムですよぉ。
6月の日生劇場「昔の日々」が楽しみです。

ブノワ。 #- | URL | 2014/04/10 11:16 | edit

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